「医療用麻薬」の誤解

緩和ケアでは、痛みを取り除くことを第一に考えています。WHO(世界保健機関)は、「痛みに対応しない医師は倫理的に許されない」と述べています。痛みは、取り除くことができる症状であり、そのための医療を受ける権利は、誰にでもあるのです。

痛みのコントロールでは、しばしば「医療用麻薬」が使われます。医療用麻薬は、がんの痛みにとても有効な薬です。使う量に上限がないので、痛みが強くなれば、それにあわせて薬を増やすことができます。しかし、麻薬中毒のイメージから、医療用麻薬を敬遠され、痛みを我慢して過ごしている方も少なくありません。

医療用麻薬は、痛みがある状態で使用すると、中毒にならないことがわかっています。副作用に対しても、さまざまな薬や対処法が開発され、十分に対応できるようになっています。また、医療用麻薬の種類も増えたことから、一人ひとりの痛みに応じた薬を使用できるようになっています。
痛みについて医師や看護師と話し合い、痛みのコントロールを始めることが大切です。

がんの痛みの治療に使われる「医療用麻薬」とは

がんの痛みの治療に用いられる代表的な医療用麻薬は「モルヒネ」です。モルヒネには、末(粉薬)、錠剤、徐放剤(ゆっくりと長時間効く薬)、内服液、貼付剤、坐剤、注射剤、シリンジ注など多くの剤形が揃っており、種々の痛みに対応できます。 体の中には医療用麻薬と同じ働きをする「β‐エンドルフィン」と呼ばれる物質があります。β‐エンドルフィンは、脳内や脊髄内の受容体に結合し、痛みを脳に伝える神経の活動を抑制して、強力な鎮痛作用を示します。医療用麻薬も同様のメカニズムで鎮痛作用を示します。 アルコールに対して、強い人、弱い人がいるように、痛みをとるために必要な医療用麻薬の量にも、個人差があります。たとえ飲む量が増えたとしても、それによって中毒を起こしたりすることはありません。

モルヒネ依存とオピオイド受容体の関係

なぜ、医療用麻薬を痛みがある状態で使用しても、中毒にならないのでしょうか?
モルヒネは、身体の中に入ると「オピオイド受容体」に作用して、効果を発揮します。オピオイド受容体には、μ、δ、κの3種類があり、相互に影響していますが(表1)、とくに「κ受容体」には、μ、δ受容体を抑制することで、精神・身体依存形成を抑える作用があります。痛みのある状態では、内因性のκオピオイド神経系が亢進することで、μ、δ受容体に作用して、鎮痛作用が促進し、精神・身体依存形成も抑制されます(図1A)。一方、痛みのない状態では、内因性のオピオイド受容体がはたらかないため、精神・身体依存を形成する場合があります(図1B) 。

図1:痛みがある人はモルヒネを使っても依存症にならない

(鈴木勉. 日医雑誌 122(12):MM-34-36, 1999より一部改変)

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表1:オピオイド受容体の種類

μ(ミュー)受容体 ... 鎮痛作用、多幸感、精神・身体依存形成
δ(デルタ)受容体 ... 鎮痛作用、多幸感、精神・身体依存形成
κ(カッパ)受容体 ... 鎮痛作用、鎮静作用、嫌悪効果

Q 医療用麻薬を使っても大丈夫? 答え 医療用麻薬は医療用に開発されています。適切に使用すれば、安全で効果的であることがわかっています。麻薬という言葉に不安をもつ方もいらっしゃるでしょうが、痛みのある人に医師が適切に使用する医療用麻薬は、たとえ量が増えたとしても中毒を起こすことはありません。

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